日本人公認会計士が常駐するグラントソ ントン・マレーシア
2019/04/30
ミッドサイズのメリットを活かし、きめ細やかに、スピーディーに日系企業をサポート
海外に進出する企業にとって問題となるのが、進出先の会社法、税法や会計基準 (→税務や会計に関する法制度、規制)をいかに理解し、遵守するかではないだろうか。
この点、国際的なビッグファームに相談するのは有効な手段であるが、企業によっては、国際的なビッグファームは敷居が高いと感じることもあるかもしれない。
そこで選択肢に挙がるのが、ビッグ4ではないものの、多国籍展開しており、日本人公認会 計士に相談できる中規模会計ファームだろう。マレーシアで、まさにそれに当てはまるのが グラントソントン・マレーシアだ。
同事務所に常駐する日本人会計士、辻充博さんにお話をうかがった。
Grant Thornton Malaysia
ジャパンデスク ディレクター
辻 充博 さん
公認会計士(日本)。2018年、日本の太陽グラントソントンから、グラントソントン・マレ ーシアに移籍。マレーシアのほか、シンガポールとカンボジアの日系顧客も兼任。
◆グラントソントン・マレーシア◆
1974 年に設立。グラントソントングループのメンバーファーム。クアラルンプール、ジョ ホールバル、ペナン、クアンタンに拠点がある。スタッフ数は約800人。主要業務は、会計 監査、税務、アドバイザリー(設立、清算、合併(→M&A)、デューデリジェンスなど)。
意思決定がスピーディーで、最新情報もいち早くキャッチアップできる環境
― マレーシアの会計ファームのなかでのグラントソントンの立ち位置はどんな感じなの でしょうか。
辻 グラントソントングループはロンドンに本部を置き、130か国以上にファームがあり拠 点数は 700 以上、5 万人以上のスタッフを擁する国際会計事務所グループです。いわゆる 「ビッグ 4」と呼ばれる大手会計事務所の次に来る規模といえばわかりやすいでしょうか。
グラントソントン・マレーシアは、グラントソントングループのメンバーファームなのです が、マレーシア国内でも「ミッドサイズファーム」として認知されています。
―グラントソントン・マレーシアの特徴や強みは何でしょうか?
辻 ミッドサイズのグラントソントンは、大手よりも小回りがきき、きめ細かいサービスの 提供が可能です。また、最新情報に関しては、品質管理部が定期的に情報をまとめて配信し てくれます。
大手事務所、小規模事務所、それぞれのデメリットをカバーできるのがミッドサイズファー ムのグラントソントンの強みでしょう。
―辻さんはマレーシアのジャパンデスクを統括されているわけですが、クロスボーダーの案件は多いのでしょうか?
辻 日本―マレーシアに限らず、シンガポール―マレーシア、マレーシア―他ASEANとい うクロスボーダー案件は結構あります。
グラントソントンは、ASEAN圏内でいうと現在ミャンマーとラオス以外にジャパンデスク を置いています。また、グラントソントンでは、ASEAN各国に駐在している日本人会計士 が、半年に一度、研修を兼ねて交流しているので横の繋がりも深く、クロスボーダー案件で もワンストップで対応できるのが強みですね。
―日本の公認会計士の資格をお持ちですが、ASEAN各国の税法や会計基準にもお詳しいんですか?
辻 日本以外のことは勉強しつつという感じです。マレーシアの税制や会計については、オ フィス内にプロフェッショナルがたくさんいるので問題ないですね。
相談案件で多いのは税務についてですが、会計監査や記帳代行、会社設立、清算などすべて ご相談いただけます。
増えている相談事案は「移転価格」
―日系企業からの相談案件は増えているのでしょうか?
辻 増えています。理由としては、日本の大企業の不正会計が問題になったことをきっかけに、 海外の子会社の会計は大丈夫なのか?という目が向けられるようになったことがあるよう
です。
海外の子会社でも日本人が駐在しているところは問題は比較的少ないのですが、現地子会 社のトップがローカルの方の場合、会計や内部統制までは本社が把握していなくて、調査や テコ入れしたいがどうすればいいのか?という相談が結構あります。
―そういう場合はどうされるんですか?
辻 まずは調査ですね。会計の内容、スタッフを雇用する際のルールや人件費の計算方法、 内部統制についてなどを調査します。問題があればルールを作り、その後、そのルールが守 られているかチェックします。
―それはかなり大変そうですね。
辻 そうですね、大変だからこそ専門家の我々に依頼していただけるのだと思います。
こういう案件が、まずはASEANのある子会社、次に別の子会社……という感じで依頼いた だく場合もありますが、私から他国のメンバーファームの日本人駐在員に説明することも 可能なので、手間が省けるとクライアントに喜んでいただいたこともあります。
―他に増えている案件はありますか?
辻 「移転価格税制(※1)」関連の案件が増えていますね。 移転価格に関しては、マレーシアでは2009年頃からルール化されていたのですが罰則はな く、2014 年の法人税の確定申告でチェックリストに入ったことで関連書類を用意する企業 が増えました。
日本でも、2016年4月1日以後に開始する事業年度から3段構え(国別報告書、マスター ファイル、ローカルファイル)の移転価格文書化制度になったことで一気に需要が出てきた ようです。
※1 移転価格税制(TransferpricingTaxation) 多国籍企業がグループ企業間での国際取引により、2か国以上の課税制度の違いから生じ る国際的二重非課税を利用して行う租税回避行為が増えている。これを防ぐために OECD (経済協力開発機構)主導で「税源浸食と利益移転(BEPS) 」への取り組みが国際的に進められており、移転価格税制もその一環。
例えば、日本の本社とマレーシアの子会社の間で売買を行う場合、その価格が同じ市場内で同様の製品を売買した平均価格と比べて著しく異なる場合、移転価格税制に則って課税さ れる。その課税を避けるため、該当する価格が適正であることを各国の国税当局に対して証 明するための書類が必要となる。
マレーシアにおいては、基本的に関連当事者間取引を行う全ての企業が、移転価格の文書化義務がある。但し、以下の場合以外には、簡便的な文書化で足りるとされている。
■総収入25百万リンギット超かつ関連当事者取引の総額が15百万リンギット超、又は
■関連者間における資金供与の額が50百万リンギット超 IRBM(マレーシア国税当局)から要求された場合には、30日内に移転価格文書を提出する 必要がある。作成していない場合には、移転価格追徴課税の 35%、作成はしているものの の移転価格ガイドラインに沿った内容でないと判断された場合には、25%がペナルティとして課される。
2019年は日系企業の進出が増えている
―2018 年、マレーシアでは総選挙、政権交代、GST の廃止に SST の復活などいろいろあ りましたが、影響はありましたか?
辻 SST はまだ内容がすべて固まったわけではなく、たまに相談を受けることもあります が、それほど大きい混乱はなかったですね。
それよりも、政権交代があったことで、2018年は日系企業(※2)の進出が少なかったの が、2019 年に入って政情が落ち着いたからか、進出に関する問い合わせが増えているとい う印象があります。
※2 JACTIM(マレーシア日本人商工会議所)に登録している日系企業
マレーシアにはMSC(※3)の制度があるのでIT企業の進出は以前から多かったですが、 最近ではバイオのようなニュービジネスの案件もあります。
※3 マルチメディア・スーパー・コリドー(MultimediaSuperCorridor)というIT企業に 対する誘致策。このステータスを取得した企業は、納税や外国人労働者の雇用等の面におい て、優遇措置を受けることができる。
―マレーシアと日本の税制や会計制度はかなり異なりますか?
辻 かなり違いますね。 例えば、日本では会計監査が義務付けられているのは基本的に上場企業と会社法上の大会 社のみですが、マレーシアでは規模を問わずすべての企業が会計監査を行う必要がある。そ のため、会計事務所の数がとても多いです。
あと、日本では決算日から 3 か月以内に株主総会を開いて決算の承認又は報告をしなけれ ばいけないのですが、マレーシアでは 6 か月以内に株主に監査済財務諸表を送付すること とされています。日本とマレーシアでタイムラグがあるため、本社サイドのスケジュールを しっかりと伝えておかないと、マレーシアの子会社側としては親会社への提出資料の提出 時期と自分たちの認識が折り合わず、「なぜそんなに急ぐのか?」という感じで、板挟みに なることもあります。
―いろいろ大変なことも多いようですが、会計士のお仕事の醍醐味とはなんでしょうか?
辻 会計士の主要業務である監査などでは、会社の内部情報を詳細に確認したうえで、先方の採用した会計処理や評価について修正を求めることがあるため、作業の過程でクライア ントと議論になることもしばしばです。一方で、会計士の仕事の醍醐味は、会計や税務の知 識を駆使し、クライアントの問題を解決して差し上げることができることでしょうか。私は 公認会計士の資格を取る前は、一般企業でセールスの仕事をしていたのですが、クライアン ト担当者や相談者の問題を解決する瞬間を感じられる現在の仕事によりやりがいを感じています。
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