会社法コラム 第5回 マレーシアにおける株式の発行・譲渡と保有に関する規定

会社法コラム 第5回 マレーシアにおける株式の発行・譲渡と保有に関する規定

2019/08/16

1.株式の発行

 旧会社法下において会社は定款で資本金額、額面金額及び株式数を定めて登記をする必要があり、定款で定められた資本金額を超えて株式の新規発行をするためには、株主総会により定款を変更し、登記を行わなければなりませんでした。
 これに対し、新会社法においては、資金調達の柔軟化を図るために授権資本制度(定款に定める発行可能株式総数の範囲内であれば柔軟な資金調達が可能な制度)が廃止され、株式についても無額面株式へ移行されています(74条)。
 

(1)株式発行の手続

 原則として取締役は事前に株主総会決議による承認を得なければ株式を割り当てる権限を行使することができないと規定されている(75条1項)ため、株式の発行に関する一次的な権限を株主に帰属させていると解されます。そして、株主総会において、株式発行の承認決議がなされた場合、14日以内に会社登記所(CCM)に通知をする必要があります(76条1項、2項)。他方、①既存の株主に対し、保有する株式の割合に従った株式の割当をする場合、②発起人に対して事前に合意した限度で株式を割当てる場合及び③株式その他の財産の取得の対価として株式を発行する場合には、株主総会の事前の承認決議は不要と規定されています(75条2項)。
これらの規定に反した株式発行は無効となり、既に払込が行われていた場合には払込金を返還する必要があります(75条4項)。また手続に関与した取締役は、会社及び株式の引受人に生じた損害を賠償する必要があります(75条5項)。なお、裁判所は会社・株主・債権者・株式に対する担保権者の申し出により株式発行の有効性・条件確認につき命令を出すことができる旨、規定されています(108条)。
 

(2)既存株主の新株引受権

 新会社法では、既存株主を保護するため、定款に別段の記載がない限り、発行される株式の割当を持株比率に従い、既存株主に対して申し出なければならないと規定しています(85条1項)。
 会社は、既存株主に対し、上記の期限を定めた株式割当の申出の通知を行い、既存の株主が割当を承諾しなかった場合又は期限内に回答しなかった場合は、取締役は株式を第三者に割り当てることができます(85条2項、3項)。
 なお、85条1項に従い、会社が既存株主に対して持株比率に従った株式割当を申出る場合は、株主総会の承認は不要となります(75条2項(a))。
 

(3)株式割当後の手続

 株式割当後の手続としては、変更から14日以内に①株主名簿を更新し(77条、50条)、②株式割当報告書(Return of the allotment)をCCMに提出すること(78条)が必要となります。


2.株式の譲渡

(1)譲渡制限

 日本では会社法に定款で別段の定めがある場合を除き、取締役会設置会社では取締役会が、それ以外の会社では株主総会が、株式譲渡の承認を決定する旨の規定があります(日本会社法139条)
 これに対し、マレーシアでは、非公開会社は株式の譲渡を制限しなければならないとの規定を設けているものの(42条2項)、譲渡制限の内容については具体的な規定がありません。そのため、株式譲渡についての具体的な制限の内容については定款で定める必要があります。
 

(2)株式譲渡の方式

 株式を譲渡する場合、譲渡証書を作成し、法令に従った印紙税を納めた上で会社に提出する必要があります(105条1項)。なお、株券が発行されている場合は、株券も一緒に提出しなければなりません(98条2項)。


3.株式に対する担保設定

 日本においては、株式質(日本会社法146条1項)、株式の譲渡担保をはじめとする株式を担保とした金融が行われています。
 他方、マレーシアでは、旧会社法上、自社またはその持株会社の株式を第三者が取得または引き受けるに際して、会社から当該第三者に資金や担保の供与によって経済的援助をすることは禁止されていましたただし、M&Aにおいて資金調達の柔軟化を図るため、新会社法において会社からの経済的援助をすることは①株主総会特別決議、過半数取締役による承認を得ること、②各取締役が支払能力宣言書を作成したこと、③援助額が対象法人の株式資本の10%を超えないこと、④対象法人が援助の対価として「公正な対価」を受領することという要件を満たした場合(123条1項)に経済的援助が認められるようになっており、条件付きながら緩和されています(126条2項)。

 

4.自己株式取得

(1) 自己株式取得の禁止

 公開会社の場合、定款によって承認されている場合には、自己株式の取得が可能となっています(127条1項)。非公開会社の場合であっても、一定の要件を満たせば自己株式の取得が可能です。ただし、自己株式については株主としての権利は取得できません(127条8項)。
 新会社法では、会社の財産の流出を防ぐため、一定の事項について支払能力検査(Solvency Test)が導入されました。それに伴い、自己株式の取得により会社が支払不能とならず、資本が毀損されず、また取締役が自己株式の取得の必要性等を宣言した後6カ月間支払能力を維持できるのでなければ、自己株式の取得を行うことはできないと規定されています(127条2項、112条2項)。
 

(2) 子会社による株式取得

 日本では、一定の場合に子会社による株式取得が認められています(日本会社法135条2項)。また、子会社は相当の時期にその有する親会社株式を処分すればよく(日本会社法135条3項)、処分するまでの期間については明文で規定されていません。
 他方、新会社法の下においては、子会社は親会社の株主となることはできないと規定されています(22条1項)。また、会社が株式を保有していた会社の子会社となった場合には、原則として12カ月以内に親会社の株式を処分する必要があります(22条5項(b))。そして、親会社の株主総会において投票することはできないと定められており(22条5項(a))、議決権を行使することはできないことになっています。
 

5.株式の併合・分割

 株式の併合・分割は、いずれも各株主の保有株式数を一律に減少又は増加させる行為であり、日本会社法では、発行済株式数を調整する役割を担っています。
 株式の併合・分割については、定款の定めがない限り、株主総会の特別決議によって行うことができます(84条1項)。




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