会社法コラム 第4回 マレーシアにおける株式の種類と株主名簿・株券

会社法コラム 第4回 マレーシアにおける株式の種類と株主名簿・株券

2019/06/11

1.株式とは

日系企業がマレーシアにおいて法人を設立し、事業を行う場合、株式有限責任会社(定款により、株主の責任を引受株式の額(未払込額含)に限定する形で設立される会社、日本における株式会社)の形態を取ることが一般的です。
株式会社における会社の所有者は株主ですが、所有分の割合は一定の株式数に応じて決定されます。言い換えると株式によって会社の所有関係を数量的に処理することが可能となっています。
 

2.株式の価値

 株式の価値は、株主総会議決権等の会社に対する権利を行使するという側面での価値だけでなく、その株が金銭的にどの程度価値があるか(いくらで売り買いできるか)という側面での価値もあります。
 株式の金銭的価値について、旧会社法では額面株式制度が採用されていました。額面株式とは、定款・株券に「一株の金額」が記載される株式であり、株式の価値の最低限度を設定できる等のメリットがありましが、新会社法では、株式発行価格設定の柔軟性等の観点から無額面株式制度を採用しています(新会社法(以下省略)74条)。
無額面株式制度における株式の金銭的価値は、発行時においては会社が決定する払込金額によって決定されます。一株いくらといわれるのは発行時の価格(資本金額÷発行株式数)が基礎となっていることが通常です。設立後の会社においては、株式の価値は一義的に決まるものでなく、簿価・類似会社比準法・DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)等の様々な計算基準を用いて会計会社等により専門家がValuationを算定することが必要である程、難しい問題となっています。
 なお、安い価格であっても高い価格であっても株主が売らなければ、株式を買うことはできないため、当事者双方が納得できる基準を提示するためにValuationが利用されることも多くなっています。
 

3.株式の種類

(1)種類株式

マレーシア会社法上、株式は主に①普通株式(Ordinary Share)②優先株式(Preference Share)に分類されています。また、定款に記載すれば(90条1項)、償還、配当、議決権(無議決権の設定可能)等の内容が異なる種類の株式を発行することも可能となります(69条)。なお、同一の会社に複数の株式が発行されている場合、各株式を種類株式と呼びます。
また、種類株式は定款上の変更手続き等の一定の手続きによって権利内容を変更することが可能です(91条)。
 

(2)普通株式(Ordinary Share)

普通株式は、優先株式以外の株式と解されており、一般的に株主の権利について特別な権利又は制限が設定されていない株式をいいます。
マレーシア会社法は、普通株式の株主は①株主総会に出席、参加、発言する権利②挙手(show of hands)による株主総会議決権③投票(poll)による株主総会議決権④会社の残余財産の分配を受ける権利⑤配当を受ける権利を有すると想定しています(71条1項)。
 

(3)優先株式(Preference Share)

マレーシア会社法上、優先株式とは一般的に議決権、配当、償還、残余財産分配等の一定の事項につき権利内容等の異なる株式をいいます(2条定義参照)。優先株式は定款に記載がない限り発行したり普通株式から転換したりすることはできません(72条1項、90条4項)。会社法には、優先株式の内容として、①資本の払戻②残余財産の分配③配当(累積的又は非累積的)④議決権⑤資本払込及び配当における優先権が規定されています(90条4項)。
つまり、配当を優先的に取得できる株式や議決権を有しない株式(90条2項(a)参照)等、様々な権利を付与又は付与しない形で株式を発行することが可能となっています。
優先株式の内容の例としては、配当や残余財産の分配に関する優先権や、償還請求権(新会社法72条(2))を有する代わりに議決権を有さない株式等があります。
 

4.株主名簿

 株主名簿とは、株主の名前とその持株数等の株主の詳細に関する事項を記載・記録するため株式会社に作成が義務付けられた帳簿をいいます(50条)。会社秘書役は株主名簿を適切に保管する義務を負っています(102条)。株主としての権利は株主名簿の記載により証明されるため、登記より株主名簿の記載が優越されるため注意が必要となります(50条3項)。
 

5.株券

マレーシア会社法において原則として会社は株券(Share Certificate)を発行する義務はなく、①株主が発行を申請した場合又は②定款で規定した場合のみ発行する義務を負います(97条1項)。ただし、旧会社法上は株券を発行する義務が定められていたため、現在においても定款に発行義務が記載されている結果、株券を発行する会社は多くなっています。
 



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