会社法コラム 第2回 マレーシアにおける事業遂行
2018/12/17
1.マレーシアにおける事業形態
マレーシアで事業を行うにあたっては株式会社だけではなく、事業の規模・責任に応じて様々な事業形態が存在し、大きく分けて、①個人事業主(Sole proprietor)②パートナーシップ③会社による事業遂行が存在します。以下は上記3つの事業形態の主な特性の比較表となります。
特性 | 個人事業 | パートナーシップ | 会社(株式有限責任会社) | |
---|---|---|---|---|
1 | 法人格 | なし | なし | 法人 |
2 | 設立の手続き | なし | なし | 法人設立手続き及び 企業登記局への登録 |
3 | 構成員 | 単一の個人 | ・2人以上20人以下 ・個人または会社 |
1人以上の個人または会社 |
4 | 株式譲渡性 | 個人事業主の同意が必要 | パートナーの同意が必要 | ・株式譲渡証書が必要 ・無証券(上場会社) ・定款に従う |
5 | 有限責任 | 事業債務はすべて個人事業主が責任を負う。 | ・パートナーの権限に属する行為によって発生する会社の義務はすべてパートナーが責任を負う。一般的なパートナーシップでは、債務返済資金が不足した場合、すべてのパートナーがその不足分に責任を負う。 ・LLP[1]では、パートナーが権限なく行動した場合、または不法行為/不作為に対してのみ、そのパートナーが責任を負う。 |
・株主の責任は、引受株式の未払込額に限定される。 ・債権者は、会社の債務について株主を訴えることはできない。 |
6 | 経営 | 個人事業主によって経営される。 | ・一般的なパートナーシップでは、すべてのパートナーが会社の経営に参加する権利を有する。 ・LLPでは、無限責任パートナーのみが事業経営に関与できる。 |
経営権は、会社秘書役が補佐する取締役会に付与される。 |
7 | 期間 | 個人事業主の同意に従う。 | ・PA 1961[2]またはLLPA 2012[3]に基づきパートナーシップを解消できる。 ・パートナーシップは、構成員の変化によって解消される。 |
・継続的存続が可能。 ・清算手続きは、CA 2016[4]に基づく。 ・会社の寿命は、株式保有または株主の構成の変化の影響を受けない。 |
8 | 課税 | 個人に対する課税 | パートナー個人に対する課税 | 法人税 |
9 | 報告及び公開 | なし | なし | 年次監査報告書、指定用紙、年次報告書の提出が必要 |
2.外国企業の進出形態
上記の3つの形態に加えて外国企業の場合は支店及び駐在員事務所の形態が存在します。外国企業の場合は、個人ではなく、小規模の形態での事業を予定していないため、現地法人、支店又は駐在員事務所の設立を通じて活動を行うことが一般的となります。
3.外国企業のマレーシアにおける事業
(1)事業とは
外国企業がマレーシアで事業を行う(Carry on business)ためには外国会社として登録する必要があります(会社法561条1項)。会社法Thirteenth Scheduleに単なる会議の開催や31日以内に終了する連続しない行為等業務に含まれない行為が列挙されているため(同2項)、事業とみなされる対象範囲は広いものと解されます。業務には、事務所の設立または使用が含まれ、使用人または代理人等を使用した場合も含まれます(同3項)。違反した場合には5万リンギット以下の罰金が科される可能性があります(同588条)。
(2)支店
上述の通り、外国企業がマレーシアで事業を行うにあたっては、マレーシア企業委員会(Companies Commission of Malaysia:CCM)に登録する必要があります。支店の場合、1名以上の代理人(Agent)を選任の上(会社法563条)、所定の申請書に必要書類を添付して申請する必要があります。実務上現地マレーシア企業との期間限定のプロジェクト等、支店形態にふさわしい形での事業遂行の必要性に関する理由付けが要求されているようです。また、流通・サービス業などの特定の分野のライセンス発行にあたって、現地法人の設立が前提となる事業分野も存在します。
(3)駐在員事務所
日本企業が本格的に営業活動を行う前段階として、駐在員事務所を設立して市場調査や情報収集活動が行うことができます。駐在員事務所の設立にあたってはMalaysian Investment Development Authority(MIDA)から許可を得る必要があります。MIDAの発行するガイドライン[5]によれば、営業活動は禁止されており、許可期間は2年間以上と記載されていますが、実際には2年間であることが多いため、現地法人を設立するかどうか判断するための過渡的な形態としてとらえていると考えられます。
※次回以降の当コラムでは、外国企業の一般的な進出形態である現地法人(株式有限責任会社)を念頭に解説させていただきます。
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