会社法コラム 第1回 マレーシアにおける会社法の全体像と会社の種類
2018/11/22
1. はじめに
マレーシアには日系企業の拠点が1,295あり[1]、マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)会員数[2]は595社となっています。マレーシアに限らず、会社が株主、従業員、取引先等の多くの利害関係者を有する以上、各国においてその利害関係を法的に調整するために会社法が制定されています。
マレーシアにおける会社法は2017年1月31日よりCompanies Act 2016(以下「新会社法」)が施行されており、620条と各種規則を有する厚い法律となっています。マレーシアに拠点を置く日系企業は会社法を順守しなければならないため、本来会社法に関する知識が重要と言えます。
もっとも日々業務に追われる駐在員が慣れない英語で、専門用語の書かれた法令を読み解くのは現実的に難しいとお聞きします。そこで、マレーシアにおける会社法及び関連法令に基づく基本的な概念についてこの場をお借りしてコラムを執筆させていただきたく機会を得ましたので、法改正及び日本の会社法との比較を通じて皆様のご理解の一助となれば幸いです。
[1] 海外在留邦人数調査統計(平成30年要約版)
[2] 2018年10月末時点、普通会員
2. マレーシアの法体系について(コモン・ローと東部地域自治権)
マレーシアは、旧宗主国である英国の影響を受けコモン・ロー(慣習法・判例法)の法体系を採用しているため、判例法の理解が重要となります。
ただし、マレーシアは連邦国家であり、特に東部のサバ州及びサラワク州では歴史的背景から多くの自治権が認められていることから、連邦憲法、連邦議会による制定法及びその下位規則、州ごとの憲法、法律及び規則等の成文法ついての知見も必要となります。
3. 会社法について
3-1 総論
前述の通り1965年に制定されていた旧会社法は改正され、新会社法が2017年1月31日より施行されています。新会社法では旧会社法に比べて、利便性の向上とコーポレートガバナンス強化を柱として、一部規制緩和されています。
3-2 個別法について
以下、会社法に関連する主な法規を記載させていただきますのでご参照ください。
- 2016年会社法(Companies Act 2016):会社に関する利害関係を調整するための法律
- 2017年会社法規則(Companies Regulation 2017):電子申請等に関する規則
- CMSA 2007 (Capital Market and Services Act 2007):主に上場会社の買収に関する規制を定めた法律
- 2016年マレーシア買収コード (Malaysian Code on Take-Overs and Mergers 2016):主に上場会社の買収の際に遵守すべき行為基準を定めた規定
- 2016年買収ルール(Rules on Take-Overs, Mergers and Compulsory Acquisition 2016):主に上場会社の買収手続きの際の詳細な規定
- 1993年証券委員会法(Securities Commission Act 1993):資本市場を規制する法律
- 2013年金融サービス法(Financial Services Act 2013):金融商品を対象に資産を運用する投資家を保護するための法律
- 2013年イスラム金融サービス法(Islamic Financial Services Act 2013): イスラム金融商品を対象に資産を運用する投資家を保護するための法律
4. 会社の種類
マレーシアの会社は株主の責任に応じて①株式有限責任会社(a company limited by shares)②保証有限責任会社(a company limited by guarantee)③無限責任会社(an unlimited company)の3種類の形態(新会社法10条)が存在し、譲渡性に応じて非公開会社(private company)と公開会社(public company)という区分が存在します。なお、②保証有限責任会社は公開会社にはなれません(新会社法11条)。(1)株主の責任に応じた会社の種類
①株式有限責任会社とは、定款により、株主の責任を引受株式の額(未払込額含)に限定する形で設立される会社(新会社法10条2項参照)のことで、日本における株式会社を意味します。
②保証有限責任会社とは、定款により、株主の責任を、会社清算時において、株主が引き受けた限度に限定する形で設立される会社(新会社法10条3項参照)のことを意味します。
③無限責任会社とは、定款により、株主の責任に限定のない形で設立される会社(新会社法10条4項参照)のことで、日本における合名会社を類似した会社となります。
(2)非公開会社及び公開会社
非公開会社(新会社法2条1項)とは株主の数が50人以下であり(新会社法42条1項)、株式に譲渡制限を有する(新会社法42条2項)会社をいいます。なお、非公開会社は株式の公開、社債等の会社の債務証書の発行等が制限されています(新会社法43条)
公開会社とは非公開会社以外の会社をいいます(新会社法2条1項)
なお、上場会社とは、一般的にマレーシア証券取引所に上場している会社を意味するため、非上場であっても公開会社である会社は存在します。
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