労働法・労務コラム 第5回 労使紛争

労働法・労務コラム 第5回 労使紛争

2018/03/13

1. はじめに

組織である会社に対し、個人である従業員の地位は弱いため、マレーシアにおいても日本と同様、労働組合を結成することが認められています。他方で労働組合の行動が時に苛烈となり得ることから、マレーシアにおいても様々な法規制が定められています。そこで、本稿では労使紛争に関する基本的な法規制について記載させていただきます。

2. 労働組合

マレーシアの労働者は組合を結成し加入する権利を有しており、使用者は労働者の労働組合に加入する権利を害することはできません(労使関係法5条および雇用法8条)。他方で労働者は組合に参加することを強制されない権利を有します(労使関係法7条)。

組合は、組合の結成から1か月以内に、労働組合局長に登録を申請し、審査されます(労働組合法8条1項、12条3項)。登録が拒絶されることもあり得えます。

労働組合が登録されると、法的に権利能力を有し、労働者の適法な代表者となる。労働組合が使用者と交渉して締結した労働協約(主に雇用に関する条件を定めた合意)は、当該労働組合に加入する資格のあるすべての労働者に対して適用されます(労使関係法17条1項)。

マレーシアの組合には、①民間企業の労働者による組合、②公務員による組合および③使用者による組合が存在します。外国人労働者は、有効な労働許可を有しているのであれば、組合に加入することができます(ただし、役員になることはできません)。

3. 紛争解決手続

(a) 労使交渉
労使交渉が行われるためには、その労使交渉に参加する労働者が労働組合に加入していることが必要であり、その労働組合を通じて労使交渉を行う場合には、その組合が使用者により認知(会社に対して所定のフォームで申請することが前提)されていることが必要となります(同9条)。労働組合が書面により、労使交渉に参加するよう通知(同13条)し、使用者は①受入②拒絶③無視することが考えられ、①の場合は交渉が開始されます。労働協約が合意された場合にはその労働協約を労働裁判所に提出します(同11条)。他方で、同意に至らない場合及び②・③の場合は労働関係局長に調停を申し立てることができます(同18条)。

(b) 調停
労使関係局長による調停は、中立的な第三者の助けを借りて、労働紛争を解決する手段となります。労使関係局長は、紛争解決のための必要な手続きをとることができます(同18条、19条)。労働関係局長は紛争が解決できないと思料する場合は、人的資源省大臣に通知しなければなりません(同18条5項)。

使用者と労働者との間でみずから労働紛争を解決できない場合、または上記調停によっても解決できない等の場合は労働裁判所を利用することが考えられます。

(c) 労働裁判所
労働裁判所は、労使関係法に基づいて設置され、同法に定められた権限を行使し、労働紛争だけを扱う特別裁判所です。労働裁判所の審理においては、個別の案件ごとに、裁判所の代表1名と委員2名が参加し(同22条1項)、委員1名が使用者を代理し、もう1名の委員が労働者を代理することになります(同21条1項)。ただし、案件が不当解雇に関するものである場合には、裁判所の代表のみが担当し委員は参加しません(同22条5項)。仲裁の場では、労働裁判所が当事者から提供された情報を基に、最終的な仲裁判断を下すことができます。

労働裁判所は判決を下すにあたり、両当事者の主張のみでなく、人的資源省によるガイドライン、公共の利益、財政状況、判決の与える経済や産業への影響およびその後の類似の事件への効果等の事情を考慮することができます(同30条)。労働裁判所の判決は原則としてその内容を争うことはできません(同33条)。労働裁判所の決定は、当事者を拘束し、その判決内容に従わない当事者は有罪となり、2,000リンギット以下の罰金もしくは1年以下の懲役刑またはその双方が科せられるおそれがあります(同56条)。

4.労使双方がとり得る手段

(a) 労働者がとり得る手段
労使交渉の際に、労働者が執り得る手段としては、①ピケッティングと②ストライキがあります。
①ピケッティングは、労働者が勤務地やその付近に集まり、公衆やその他の労働者に対して平穏に情報を伝え、他の労働者に対し、ストライキが宣言された場合には就業しないよう説得する行為と規定されています(同40条)。ストライキを適法とするための要件を満たすことは必ずしも容易ではないため、ピケは労働者の要求を主張するための組合の重要な手段の1つとなっています。
②ストライキとは、労働者の共同による勤務の中断や、勤務・雇用継続の拒絶、雇用に関連する義務の制限、削減、中断または遅延を目的とする等の行為または不作為と規定されています(同2条参照)。この定義の中には、怠業戦術や順法闘争も含まれます。ストライキは、労使関係法上の労働紛争の範囲内で行われなくてはなりません(同45条)。

 (b) 使用者がとり得る手段
使用者側の採り得る手段の1つはロックアウトとなっています。ロックアウトとは、労働紛争に関連して、雇用や雇用に関係する条件を労働者に受け入れさせることを目的として、勤務地の閉鎖、勤務の停止、雇用している労働者を採用し続けることを使用者が拒否することと規定されています(同2条参照)。
ロックアウトはストライキの場合と同様、法律上の要件を満たす必要があります。使用者としては、経営に関与する労働者や組合に参加していない労働者や新たに採用した労働者を配置することにより、通常通り勤務を継続することでストライキに対抗することが考えられます。

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