労働法・労務コラム 第3回 賃金

労働法・労務コラム 第3回 賃金

2018/02/07

1. 賃金支払いの重要性
日本に限らず、生活の糧である賃金の支払いは一般的に従業員にとって最大の関心事であり、賃金に関する紛争も多いことから賃金に関する法規制の理解が重要となっています。そこで本稿では賃金に関する基本的な法規制を中心に記載させていただきます。

2. 賃金の定義
雇用法(以下省略)上賃金とは、雇用契約に基づいた労働の対価として労働者に現金で支払われる基本給及びその他すべての支払いと定義されており、以下のものは含まれないと規定されています(2条1項)。
a) 住宅手当、食事手当、燃料費、水道光熱費、医療手当、その他認められた福利厚生
b) 会社が自ら計算で支払う年金基金、退職積立、老齢退職手当、整理解雇・契約終了・レイオフ・定年退職に関する手当、貯蓄、労働者のためのその他の基金や福祉のための支払い 
c) 旅費交通費・特別手当
d) 業務の性質上必要な労働者に支払われるべき費用
e) 解雇や定年退職に対して支払われる給付金
f) 年次賞与の全部又はその一部

以上の規定より、残業代は賃金に該当しますが、賞与・退職金などの労働の対価でない支払い及び雇用契約に基づかない支払いについては賃金に該当しません。

3. 支払方法・期間・支払額
賃金期間(1)は1ヶ月を超えてはならないと規定されている(18条1項)ため、賃金は最低1ヶ月に1回以上支払わなくてはなりません。現金のほか、銀行口座への振込や小切手による支払いも可能です(25A条)が、現物支給は認められていません。時間外手当は、勤務日の時間外であれば時給の1.5倍を下回ることができない等支払額についても雇用法上の規制があります。(第2回コラム内表参照)
(1) 
賃金期間とは、労働者に対して支払われる賃金の基礎となる期間をいう(2条1項)


4. 支払時期
原則として、賃金は賃金期間の最終日から7日以内(7日目が休日の場合にはそれ以前)に支払われなくてはなりません(19条)。雇用契約が終了した場合には、終了原因によって以下のように支払日が異なります。
a) 期間の定めのある雇用契約が期間の満了により終了した場合、事前の予告通知により雇用契約が終了した場合及び会社が通知によらないで雇用契約を終了させた場合には、会社は、賃金全額をその雇用契約の終了日に支払われなくてはなりません(20条)。
b) 労働者が事前の通知によらないで雇用契約を終了させた場合には、その退職から3日以内に賃金が支払われなくてはなりません(21条2項)。

5. 最低賃金命令(Minimum Wages Order 2016)
最低賃金命令により2016年7月1日に、最低賃金レートがマレー半島部で月額1,000リンギ/時給4.81リンギ、サバ州、サラワク州、ラブアン連邦直轄地で月額920リンギ/時給4.42リンギに引き上げられました(同3条)。本命令はメイドなどの家庭内労働者を除いた労働者に広く適用されています(同2条)。

6. 賃金の前借
会社は賃金を事前に貸与ことができるが、利息を付することはできません(22条、24条1項c)。前借の総額は前月1ヶ月分の賃金を超えてはならないのが原則ですが、下記の目的での労働者による借入である場合にはそれ以上の金額の貸し付けが認められています。
a) 家屋の購入・建築・改築
b) 土地の購入
c) 自動車、バイク、自電車の購入
d) 勤務先の事業の持分購入
e) コンピューターの購入
f) 従業員又は近親者の医療費
g) 会社保障法に定められた一時的就労不能に対する支払い
h) 従業員又は近親者の教育費等

7. 賃金からの控除
雇用法上以下の項目について賃金からの控除が認められています(24条2項)。
a) 過去3ヶ月の間になされた会社の誤りによる過払い
b) 雇用契約違反に基づく補償
c) 前払い賃金の返済
d) その他法律により認められている場合
控除額は原則として1ヶ月当たりの賃金の50%までとされています(24条8項)。
ただし、予告通知ない雇用契約終了に伴う補償や雇用契約終了の場合の最終支払についてはこの制限が適用されません(24条9項a、b)。また、住宅ローンを支払うときは、労働局長の事前承認を書面で得れば、最大75%まで控除することがで可能となります(同c)。

8. 13ヶ月手当等
シンガポールではAWS (The Annual Wage Supplement)等の名称で13ヶ月目の給与を支給する慣習があり、多くの企業が現実に支払いを行っています。マレーシアでも同様に13か月目の給与、個人の業績に応じた賞与やContractual Bonusとして1ヶ月程度の賞与を支払う企業もあります。賞与については、雇用契約や就業規則に定めない場合には、雇用法上、支払業務を負いませんが、後日の紛争を避けるため、雇用契約書上明記もしくは支払の有無について雇用契約締結時に十分に話し合っていただくことが望ましいかと存じます。

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